国土交通省が発表する毎年1月1日時点における地価公示価格の変動率で、1年間の地価がどのように推移したのかを知ることができます。

下のグラフは東海道線各駅前一等地の商業地における地価公示標準地の価格(㎡単価)の変動率を東京駅から小田原駅まで順番に隔年で年代別(H21~H31)に並べたもので、東京都心から小田原に離れるに従って地価の変動にどのような違いがあるのかを比較したものです。

(国土交通省:毎年1月1日時点の地価公示標準地の年間変動率)

 

全体的にグラフを見ていえることは、都心に近い程地価の変動幅が大きく、郊外に行くに従い変動が小さくなる傾向があるということです。これは直感的に理解できる地価動向と合致するものだと思います。

平成21年(2009年)はリーマンショックによる影響が大きく、品川駅(港5-26)は▲11.0%を記録しておりますが、アベノミクスを経てH31年(2019年)には8.3%の上昇となっており、9年間の間に地価は大きく変動していることが分かります。標準地の価格でみると品川駅(港5-26)はH21年の4,040千円/㎡からH25年(2013年)の3,200千円/㎡を底としてH31年の4,820千円/㎡まで上昇しています。これに対して東京都心から鉄道距離で約60㎞離れた平塚駅(平塚5-6)は平成25年以降も下落を続け、平成29年以降±0.0%と下げ止まりました。

平成24、25年ごろから都心を中心に上昇に転じた地価は、都心部から離れるに従い回復のテンポが緩やかになっていることがグラフから分かります。

以下では、なぜ都心部と郊外部で地価や地価上昇率に大きな差が生じるのかを考えてみたいと思います。

 

《都心からの距離、駅乗降客数と公示価格との関係》

都市集積が起こる理由は、①他人とのコミュニケーションや企業間の取引を日々円滑に行うため時間節約や費用を小さくするため。②また規模の経済効果により郊外部では成立し得ない多種多様なサービスを提供するサービス業や小売業などが数多く出店するため。③さらに、様々な能力を持った労働者を広域的に集めるため交通インフラが整備された都市部が有利であることなどが挙げられますが、地価公示のデータから東京駅や品川駅、横浜駅、川崎駅では、こうしたことから都市集積が進み、都市集積が地価を上昇させていると考えることができます。

 各駅の公示価格と都心からの距離、駅乗降客数との関係を散布図にプロットすると次のような関係が分かります。

下のグラフのとおり、縦軸に公示価格(万円/㎡)、横軸に東京駅からの鉄道距離(㎞)をとった散布図で両者の関係をみると東京駅から離れるに従い公示価格(万円/㎡)は低くなることが分かります。(R2=自由度修正済み決定係数)(公示価格・東京駅(千代田5-2)は桁が大きすぎるのでここでは除外しています。)

また、横軸に各駅の乗降客数(万人/日)、縦軸に地価公示の年間上昇(下落)率をとった散布図では、乗降客数が多い程、上昇率が高くなるという関係が確認できます。

2つのグラフから言えることは、都心部の駅前商業地は東海道線を利用して郊外部から通勤・通学で人々が集まり、経済活動が活発に行われることで土地の価値が上昇しているのではないかということです。

国勢調査(平成27年)から各地域(自治体ごと)の従業者数を確認してみます。

 

《東海道沿線駅の各地域(市区)の従業者(15歳以上自宅以外就業者))》

 千代田区、港区、川崎市川崎区から小田原市までの各市区ごとにその地域を従業地とする従業者は、下表のとおり、74万人→73万人→13万人→12万人→7.9万人→5.6万人→14万人→5万人→9万人…7.5万人と都心が最も多く、都心から離れるに従い減少していることが確認できます。都心部の千代田区や港区を常住地とする従業者数は1.7万人、6.2万人ですが、郊外部の藤沢市や茅ヶ崎は17万人、9.6万人と従業者数が多く、都心部ではこのような首都圏の郊外部から広く従業者を集めていることが分かります。

東京駅のある千代田区では、千代田区を常住地とする人のうち自宅以外で就業する人は17,580人おり、そのうちの7,940人(45.2%)が同じ千代田区で従業しており、またそのほとんどである15,814人(90.0%)が23区内で従業しています。一方、千代田区及び千代田区以外を常住地とする人で千代田区を従業地とする人は748,327人で千代田区を常住地とする従業者(7,940人)の94倍となっており、千代田区は多くの従業者を集めています。 

 また、東京23区と横浜・川崎の従業者数の合計を確認すると、東京23区で566万人である一方、横浜市と川崎市で121万人と59万人、合計180万人とその差は386万人と大きく、東京23区が東京市部や千葉・埼玉方面からも広域的に労働力を集めていることが推測できます。

また、上表では常住地の従業者がどこの地域で従業しているのかを割合で表示しました。

千代田区、港区は同一区内での従業が45.2%、42.2%、23区内での従業がそれぞれ約90%となっているのが非常に特徴的です。また、同一市内での従業は鎌倉市32.1%、藤沢市42.4%、茅ヶ崎市33.3%、大磯町20.2%、二宮町21.1%と割合としては高いですが、東京都心と比較すると低くなる傾向にあります。千代田区や港区などの都心に住んでいる人は23区内で仕事をするために都心に住んでいますが、郊外に住んでいる人の大半は市外で仕事をしています。東京23区を従業地としている人は川崎市川崎区30.5%、横浜市西区31.2%、鎌倉市26.2%、藤沢市15.6%、茅ヶ崎市15.8%、平塚市8.2%、大磯町13.2%、二宮町10.7%と郊外に行くに従い少なくなる傾向がはっきりと確認できます。郊外部では常住地を中心として横浜市やその周辺の地域を従業地としています。

ただし、中でも例外的なのが平塚市53.1%、小田原市58.2%で、両市では地元で従業する人の割合が非常に高くなっています。平塚市は製造業、小田原市は運輸業・製造業などの拠点が多く存在し、都心部までの通勤限界圏であることから同一市内で従業することを選択する人が多いものと考えられます。

 

《投資家の観点からの分析》

鉄道網が発達している首都圏では、上記で確認したとおり東京都心部に人が集まることが可能で、人々が集まって直接コミュニケーションがとられて、様々な財やサービスが提供・消費されています。このため都市集積が進んでいるわけですが、このことを踏まえて都心部と郊外部でこのような地価変動に大きな違いが起きる理由を挙げてみました。

 

①都心の方が土地の立体利用が進んでいること。

②都心の方がオフィスや店舗に対する需要が旺盛で家賃が上昇していること。

③都心の方がインフラ整備や再開発などによる投資が進んでいること。

④都心の方が様々な経路で国内外の資金が流入すること。

⑤②~④による将来的な賃料・地価上昇期待から投資家の期待利回りが低いこと。

 

①都心の方が土地の立体利用が進んでいることについて

都心の方が容積率が高く同じ広さの土地でもその上に建築できる建物は、都心の方が床面積を広く取ることができるということです。このため、土地の所有者がビルや商業施設を建築して自己利用や賃貸できる床が広く、そこから得られる利益も大きくなるということです。

それぞれの容積率は下記のとおりです。

  • 東京駅(千代田5-2)商業地域(建蔽率/容積率:80%/1300%)
  • 品川駅(品川5-26)商業地域(建蔽率/容積率:80%/700%)
  • 川崎駅(川崎5-16)商業地域(建蔽率/容積率:80%/800%)
  • 横浜駅(横浜西5-13)商業地域(建蔽率/容積率:80%/800%)
  • 戸塚駅(戸塚5-1)商業地域(建蔽率/容積率:80%/600%)
  • 戸塚駅(戸塚5-3)近隣商業地域(建蔽率/容積率:80%/400%)
  • 大船駅(鎌倉5-2)商業地域(建蔽率/容積率:80%/400%)
  • 藤沢駅(藤沢5-3)商業地域(建蔽率/容積率:80%/600%)
  • 辻堂駅(藤沢5-13)近隣商業地域(建蔽率/容積率:80%/200%)
  • 平塚駅(平塚5-13)商業地域(建蔽率/容積率:80%/600%)
  • 大磯駅(大磯5-2)近隣商業地域(建蔽率/容積率:80%/200%)
  • 二宮駅(大磯5-2)近隣商業地域(建蔽率/容積率:80%/200%)
  • 小田原駅(小田原5-2)商業地域(建蔽率/容積率:80%/500%)

(東京駅は特例容積率適用地区で容積率1300%まで引き上げられている一方で、大磯駅や二宮駅は駅前でも容積率は200%に指定されています。)

とても大雑把に説明すると、建物床面積1㎡当りの効用(収益性や使用価値)が1ポイント上がると

東京駅では1ポイント×1300%=13ポイント

二宮駅では1ポイント×200%=2ポイント

上昇することになり、仮に建物帰属分が半分の50%だとすると土地帰属分の効用は

東京駅13ポイント×(1-0.5)=6.5

二宮駅では2ポイント×(1-0.5)=1.0

上昇するということになり、

この試算では東京駅と二宮駅では6.5÷1.0=6.5倍、効用の格差が発生するということになります。

(ただし、容積率を緩和しても都市集積の必然性がなければ土地の高度利用は行われませんし、高度利用を前提とする地価形成が行われることはありません。)

 

②都心の方がオフィスや店舗に対する需要が旺盛で家賃が上昇していることについて

都心部の方が、オフィスや店舗の家賃単価が高くなり商業地の地価を押し上げているということです。

三鬼商事によるオフィスマーケット情報によると千代田区のオフィス賃料単価は直近で23,411円/坪で最近の底値から1.3倍に上昇していますが、新横浜地区のオフィス賃料については、2015年4月から直近の10,099円/坪まで1.08倍にとどまっています。(東海道沿線で郊外部のオフィス賃料データで千代田区と比較できるものがないため、新横浜地区と比較)
どちらのエリアも就業者数の増加(東京都H30.10-12・794.6万人前年比+2.8%)に伴い法人のオフィス需要が高まっており、空室率が2%を切るという非常に低い水準となっておりますが、賃料単価の上昇には大きな差が存在します。

 

③都心の方がインフラ整備や再開発などによる投資が進んでいることについて

 冒頭のグラフでは公示価格の上昇率が高い品川駅、川崎駅、横浜駅について確認してみると。

 品川駅では、品川駅と田町駅の間で2020年に新駅(高輪ゲートウェイ駅)の開業する予定で、その周辺の再開発と併せて総事業費5000億円が投下されることになっています。また、2027年にはリニア中央新幹線が品川駅から名古屋駅間で開業予定となっており、5.5兆円もの事業費が見込まれています。

 川崎駅については、駅周辺で国や市による補助金など全体で286億円が投じられ駅自由通路整備や公共空間整備が行われています。また、西口では2021年竣工予定のJR変電所跡地(約3,700坪)の再開発計画、東口さいか屋跡地にパルコによる商業施設「ゼロゲート」の出店が決定しています。

 横浜駅は、「エキサイトよこはま22」としてまちづくりの将来像を掲げ駅周辺の基盤整備が行われています。また、西口駅ビルの建替え事業が行われており、2020年に駅前棟はJR横浜タワー、鶴屋町棟はJR横浜鶴屋町ビルとして竣工予定となっています。また、西口鶴地区では地上44階建ての共同住宅や店舗、事務所、ホテルなどの高層ビルが計画されています。

 このように、地価上昇が鮮明な駅周辺においては、大規模な再開発事業により多額の事業費が投じられる計画が進んでおり、今後もさらに就業者や買い物客、居住者など様々な人が集まることが見込まれています。

 

④都心の方が様々な経路で国内外の資金が流入することについて

 一般社団法人不動産証券化協会によるとJ-REIT保有不動産の所在地別比率(2019年2月末時点)は、東京都心5区で33.2%、その他23区で16.3%と約半分(49.5%)が東京23区で占められています。取得価格ベースで9兆円分の資金が不動産投資法人経由で東京23区に流れ込んでいます。投資口への投資家は金融機関(都銀、地銀、信託銀行など)や事業法人、外国法人等で国内外の資金が集まっています。このように、東京都心部は資金が流入することで物件の取得競争が起こり価格が上昇しやすい市場であるといえます。

また、金融政策と地価動向の関係をみてみます。

日銀の統計によるマネーストック(M3)、不動産業向け貸出残高、個人による貸家業向け残高をH22.3(2010.3)時点を100として指数化したグラフで確認すると、H30.12(2018.12)時点でマネーストック(M3)は126.5、不動産業向け貸出残高は130.7、個人による貸家業向け残高は118.4と増加しており、市中に出回るお金が金融機関を通じて不動産に流れていることが分かります(Jリートへの貸出は「不動産業向け貸出残高」に含まれています。)。また、地価公示(港5-24)と(茅ヶ崎5-1)を同様に指数化して同グラフに重ねると、品川駅前の(港5-24)は不動産業向け貸出残高の増加に比例して上昇していることが分かります。一方で、茅ヶ崎駅前の(茅ヶ崎5-1)は下げ止まっていますが大きな変化は見られません。

つまり、金融緩和政策により資金は不動産に向かいましたが、郊外よりも都心部の地価を押し上げていると言えます。

※2013年以降の日銀の金融緩和政策によりマネタリーベースが増加しています。マネタリーベースは、日銀が供給する市中に出回っている流通現金と日銀当座預金の合計で、日銀による金融政策は金融機関が日銀に開設している当座預金に資金を供給する(国債の買入)ことでマネタリーベースをコントロールしています。2010年3月期から2018年12月期まで105兆円から497兆円まで約4.7倍に増加しています。

マネーストック(M3)は、基本的に個人や一般法人、地方公共団体、地方公営企業などの通貨保有主体が保有する通貨量の残高で預金取扱機関、保険会社、政府関係金融機関、証券会社等を除きます。日銀がマネタリーベースを増加させると金融機関の信用創造によりマネーストックは膨らんでいきますが、2010年3月期から018年12月期までを確認すると1,064兆円から1,347兆円まで約1.3倍に増加しています。

(貨幣乗数は2010年3月期→2018年12月期、10.1倍→2.7倍と低下しています。)

 

⑤②~④による将来的な賃料・地価上昇期待から投資家の期待利回りが低いことについて

 期待利回りが低い程、収益価格は高くなります。期待利回りが低いということはその不動産はリスクが低く、将来の成長期待が高いという評価を市場で受けているということです。

不動産の利回りは、金利(10年物国債利回りなどリスクフリーレート)+リスクプレミアム-期待成長率として捉えることができますが、最近は国債の利回りが0%近辺で推移しているため、その分、不動産投資家の取引利回りも全体的に低下しています。また、期待成長率は不動産から得られる収益の上昇期待が高まることで利回りを低下させる要因になります。そして、それだけ地価も高くなります。

仮に、年間ネット収益が100万円の不動産があった場合、取引利回りが4%と5%では4%の方が高くなります(100万円÷4%=2,500万円>100万円÷5%=2,000万円)。同じ収益を得ている不動産であっても、エリアや用途、建物築年数などで認識されるリスクや将来への期待などは異なるので、価格には差異が生じることになるわけです。

 一般財団法人日本不動産研究所が集計している「不動産投資家調査」によると、丸の内・大手町地区をはじめとするAクラスビルの取引利回りは下記のグラフの通り2013年以降、年々低下しています。

 都心のオフィスビルに対する需要は企業の設備投資や雇用の拡大により増大していることから、先に確認した通り賃料単価は上昇しており、都心の方が上昇幅が大きいことが確認されています。つまり、このような収益の上昇期待は利回りを押し下げることから都心部の方が、取引利回りが低くなっています。

以上